こんにちは。kurokoです。
スマホ登場の遥か前、2001年にスマートスキン(スマホで二つの指で画面を拡大したり縮小したりする手法)を発明した日本人がいます。
それが暦本純一氏です。
その暦本氏が最新のビジネス本として、「発明するコツ」を教えてくれる本が話題になっています。
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iPhoneの登場の5年以上前からスマートスキンを発明したことで有名ですが、本書を読むと発明を囲い込むのではなく、
このブログでは、本の要点とともにkurokoが読んだ感想も交えて紹介していきます。
暦本純一氏とは何者か?
まず暦本氏とは何者なのでしょうか?
現在の肩書きをみると以下の通り。
・東京大学大学院情報学環教授
・ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長
・ソニーCSL京都ディレクター
ソニーの研究所を中心に活動し、多数の発明品を生み出しています。
本書を読むとより詳しい経歴が分かりますが、
暦本氏は東京大学を卒業後、NECに就職したそうです。
その後、カナダはトロントの大学に留学します。トロントと言えば、2012年にディープラーニングを編み出した事で有名ですが、なぜアメリカのシリコンバレーなどではなく、トロントであったのか。という理由についても本書では展開しており、非常に興味深いです。
そして留学後日本に戻ってからは、NECからソニーに移ります。
1を100にスケールすることを中心にするNECの研究所よりも、
0から1を作り出すソニーの研究所の方が魅力的に、自分にあっていると述べられています。
発明を作り出すコツは?
本書によると、発明やイノベーションを起こすにはコツがあると言います。
天使度と悪魔度
様々なコツが掲載されていますが、中でも重要な概念が「天使度と悪魔度」のバランスです。
天使度というのは、素人や子供のような発想で考える。まさに妄想するということです。
そして、悪魔度というのは、専門家やその道の技術者として難易度が高く、実現するのに非常に苦労する度合いのことと理解しました。
発明にはこの二つをバランス良く持っている必要があるとのこと。
そして、人は成長するにつれて、最初は悪魔度が低い一方で天使度が高いが、熟練して悪魔度が高くなると天使度が低くなってしまうというジレンマを語ります。
ここを意識することで、自分を振り返り、バランス感覚を持ってイノベーションに取り組むことが大切であると改めて考えさせられました。
この考え方は、いろんな言い方で本書の中で何度も出てきます。
本書の題名にもなっている「妄想する頭」と「思考する手」はまさに、天使度を高い状態に維持するための妄想する頭と悪魔度を高い状態にするために手を動かし思考する大切さを語っています。
眼高手低
また、後半には別の言葉で「眼高手低」という言葉も出てきます。
中国の格言で、本来の意味は「批評はできるが、実際に手を動かすとできない」という意味のようです。
この言葉を、暮らしの手帖の創刊編集長、花森安治氏は、手低を現実の生活に根ざしているという意味で用いたことを挙げています。
眼は高い視点を保ち、手は現実をおさえて動かす
これもイノベーションに必要な天使度と悪魔度二つの要素と合致します。
デザインシンキングやブレストではイノベーションは作り出せない?
企業で新事業の創出やイノベーションを行われている手法についての言及もされています。
中でもハッとさせられたのは、ブレストや多数決ではイノベーティブな考えは作れないというものです。
実は、新規事業などの検討でデザインシンキングなどはこの方法を多用しています。。
どのような主張か見ていきます。
ブレストはワークしない
ブレストでは良いアイディアより、その場でウケるアイディアを出すという力学が働いてしまう。
あるいは、ブレスト自体を成立させるためにアイディアを出して、仕事のやった感を出すようにふるまう。
このため、アイディア自体よりもアイディアを出すという仕事をやっている感を作っているにすぎないと一刀両断しています。
一理あると思いますが、必ずしも全否定されることでもないとは思いました。
確かに、スマホが全くない状態からスマートスキンのようなものを生み出すことは難しいでしょう。
しかし、カスタマーのペインポイントからインサイトを引き出すようなブレストやデザインシンキングという手法は、今までこのようなことを考えてこなかった、やってこなかった人たちには有効なメソッドではあると思いますし、全く新しい物でなくとも、今までにないサービスを考えるというレベルでは世の中には実際に数々の新たなサービスをこの手法で作り出せているとも思います。
多数決ではジャッジできない
なぜなら丸まってしまうから、いろんな立場のいいとこ取りをするアイディアは尖らない。
結果つまらないアイディアとなってしまう。
こちらはそうだと思います。
多数決で決めるよりも、思いを持った人がリーダーとして進めるという方が新しい事業やサービスはうまくい気ます。
なぜなら、進める上でのハードルが山ほどあり、それを乗り越えるのは多数決で決まったことでは無理だからです。
しかし一方で、デザインシンキングのプロセスには往々にして、多数決で決定するというプロセスが入っているのが多くのケースではないでしょうか。。
暦本氏が目指すレベルはどこかアートに近いのかもしれません。
今まで世の中になかった新たな価値を創造することが彼の目指すべき発明というゴールです。
この場合、半分以上の人から支持されるような発明は、あまり面白くないものになってしまう。
アートも新しい価値観を世の中に打ち出すという意味では、半分以上の人に受け入れられるというのは、新しい価値観を提示できていないということになります。
「キョトン」という空気が大事
暦本氏はイノベーティブなアイディアは人の反応で大方わかると言います。
それは話した時に「キョトン」とすることだと。
暦本氏はこのキョトンが極めて大切だと説きます。
この考えはなるほどなと思わせられます。
例えば、ビットコインが出た時、なんとも怪しく、面白そうにも聞こえ、一体何なんだろうという今まで体験したことのないような感情があふれました。
イノベーションの最初はきっとそういうことなんだと思います。
次の章ではスマートスキンの発明秘話や、「キョトン」とする具体的なアイディアなど例示したいと思います。
スマートスキンの発明秘話
暦本氏がスマートスキンを発明したのは2001年。携帯電話はインターネットに接続されていましたが、まだスマホの片鱗もなかった事態です。
スマートスキンの元となったアイディア、
その最初は「テーブルに物を置いておくとその位置がわかる」という発明だったそうです。
ん、一体それは・・・「???」という感じです。。
そして、これは技術的には悪魔的に難しいとのこと。。。
イマイチピンときません。
これが「キョトン」とするということなのでしょうか?
話は続きます。
???という感じのようにこれは面白さとしてはイマイチだと暦本氏も認識されていたとのこと。
そんな時、ほぼ同じ技術で、「指で画面を操作する」というアイディアを思いつきます。
しかし、論文の締め切りは3ヶ月前に迫っていました。
ですが、この天使度の高いアイディアにしようと、ピボットを決断したとのこと。
技術の難易度は下がったが、指で画面を操作というのはシンプルでわかりやすく面白い。
結果として、想定外の高評価を勝ち得たとのことです。
今から考えると、そんな事は簡単に思いつきそうな感じがします。(だいぶ失礼)
ですが、実際にはそうではなく、世の中に無いものを思いつくというのは大変難しいものなのだと感じます。
「キョトン」とするアイディア
本書では他にもキョトンとする数々のアイディアが紹介されています。
詳しくは実際に手に取ってもらいたいですが、印象に残った二つを紹介します。
時差を解消する妄想
暦本氏は前々から時差を解消したいと考えているとのこと。
いや、地球が丸い時点で無理でしょ。
と思ってしまうのは、発想力、妄想力が無いという証だろうか。と恐る恐る読み進めます。
具体的には、1年、365日を360日にする。すると1日は24時間より20分程度長くなります。
そうすると時間と太陽の位置は毎日ずれていきます。毎日お昼の12時は太陽の位置が違うということです。
そして2ヶ月周期くらいで元に戻る。
全世界この同じ時間を使うことで時差は解消されるというのです。
???!!!
確かに時差は解消できそうですが、随分と不便な世の中になりそうだと感じてしまいました。
しかし、一方で、確かに時間と太陽の位置を切り離すので、時差は消滅しそうです。
時間と太陽の位置が全世界ほぼ一致している(昼の12時は太陽が南中する時間という考えが今は全世界で一致している)から時差が発生するのであって、時間と太陽の位置を切り離せば時差が発生しないようにできそうです。
これは、時差が無くなった方が便利なのか、時差があった方が便利なのか。という問題になりそうです。
うーん。正直グローバルにそれほど生活していない私からは、時差があった方が便利に感じてしまいました。
暦本氏は、この話をしても賛同を全く得られないので、眠らせているとのこと。
しかし、画期的なイノベーションとはこのような発想から生まれるのかもしれないと感じられる事例でした。
人間ウーバーという妄想と実験
この事例は実際に実験もしている面白い事例です。
他人の顔面にお面のようにモニターをつけ、自分の顔を映し、リモートでコントロールするという事例。
テレポーテーションを今の技術で実現しようとするとこういうことなのかもしれないと思わせてくれる事例です。
暦本氏チームは実際に装置を作り、実験もしています。
顔面にモニターをつけた姿で、役所に行き、モニターに写っている顔の人になりきり手続きを進めたとのことです。
問題が発生しそうなものですが、なんと普通に手続きが完了できてしまったとのこと。
その後、お面をとり、実験の趣旨を説明しようとしたところ、お面をとって別な人が出てきて、とても驚かれたとのことです。
これはあまりに意外でした。
まず、そんな姿で役所に入った時点で止められそうなものですが、、
意外と人間は思い込みで考えるところがあり、中に別人が入っているという想像をしないということなんでしょうか。。
イノベーションを起こすために必要なことと阻害すること
上記の事例なども踏まえて、本書で語られていたイノベーションに必要なことと阻害することなどをまとめておきます。
時にはピボットが大切
イノベーティブなアイディアには天使度と悪魔度が大切とありましたが、
そのバランスが悪い場合は時には大胆にアイディアを捨て去り、大きくピボットしていくことも大切
眠らせておくことも大切
アイディアの実現はタイミングが大切で程よい時まで眠らせておき、時期を待つことも大切
失敗は大切
よく聞く話ではありますが、暦本氏も失敗は大切と言います。
しかし理由が特徴的で
簡単に成功するアイディアは、競争力がない。他の人も多分見つけている。
逆に失敗するということは、成功する人が少ないという証明でもある。
とにかく手を早く動かして試す
これもよく言われることです。
暦本氏も指摘するのは、アイディアが新しいうちにとにかく実際にやってみること。
そこで、イマイチならピボットすればいいし、早くに失敗して問題点を気付くことが大切。
こだわりやビジョン、社風はマイナス
これは意外な話です。
例えば、ソニーらしい物を作るというのは、実はアイディアを束縛するもになり得ると言います。
イノベーションのジレンマは過去の成功を捨て去ることができないことが原因と言われますが、ビジョンに縛られるという側面もあるかもしれないと感じました。
また、暦本氏はこのようなこだわりを「イナーシャ」と呼んでいるそうです。
イナーシャは企業だけでなく個人でも起こり、特に経験のある専門家や自分は〇〇屋という場合に起こるそうです。
〇〇屋の自分にはできない。と思ったら、そもそも何がしたいのか。を自分に問うてみた方が良い。
それが無駄なこだわりだと思ったら自分のイナーシャにブレーキをかけてピボットできる。
と暦本氏は語ります。
選択と集中ではイノベーションは起こせない
イノベーションを起こすには選択と集中をするのではなく、広く張っておく中で起きると言います。
ディープラーニングのイノベーションを例示して説明されています。
2012年にカナダのトロント大学の研究チームが大きなイノベーションを起こしました。
それが起こったのは、GoogleやAmazonなどアメリカ勢ではなく、カナダのトロントだったのは偶然ではないと言います。
暦本氏はカナダに留学しており、その経験からも、カナダの大学はどちらかというとマイペースで、企業の資金も入っていなくて自由に研究するような文化であったこと。
そして、90年代のAIの冬の時代、成果主義ではない自由な研究風土が残り、選択と集中により効率的に成果を得るという風土ではなかったからこそ大きなブレイクスルーが起こったと言います。
というのも、何をすべきか?がわからない段階では、一つに絞って、選択し集中するよりも幅広く色々試してみるというアプローチの方が得策であるからです。
少なくともそういう研究を進める人や機関が社会には必要であり、今の企業でのある程度成果を残さないとお金が得られないような研究からはイノベーティブな大きなブレイクスルーは起こせないと話します。
日本でイノベーションを起こすために
日本は新しいイノベーティブなものをなかなか受け入れられないと言われます。
それは、
「ルールを無視してとりあえずやってみよう。」
という心意気を許さないのが問題と指摘されています。
うまく行くかをじっくり検証し、安全性が確保されないと実行できない。
社会は、失敗に対して、ここぞとばかりに問題視し、ルールが厳格化される。
これが繰り返され、ネガティブループにハマっていく。
今の日本には、妄想をとにかく手を動かして試してみることが大切と主張されています。
一方で、日本の良さは、「妄想大国であること」
アイディアの宝庫であることは我々の資産です。
手塚治虫やドラえもんに攻殻機動隊。
日本には未来の妄想を駆り立てるクリエイティブが山ほどあり、全て日本発です。
ちなみに、暦本氏のソニーの研究所では、ドラえもん全巻が揃っているそうです。
経費で購入した際には経理から「何ですかこれ・・・」と問い合わせがあったらしい。。
そもそも、技術の進歩は人間を拡張させるという概念で考えるととてもわかりやすいと説きます。
17世紀に顕微鏡を発見したロバート・フックは著書「ミクロディア」の中で、
「顕微鏡は視覚の拡張である。例えば聴覚、味覚、嗅覚、触覚なども、将来の発明で拡張されるだろう」
と述べています。
いずれ攻殻機動隊のように脳に直接情報を入れる日が来るかもしれません。
その前にも色々なデバイスはそれに準じた機能を提供するでしょう。
直接脳に入らなくとも、スマホでいつでも検索できるのは、それに近い機能性を持っていると捉えることもできます。
イノベーションを起こすには社会の余白が必要
そして、余白、余力のようなものが社会には必要と続きます。
かつて炭鉱では「スカブラ」という人たちがいたそうです。
100人くらい働く中で、5人くらいは何もせずにぶらぶらしている人たちがいたとのこと。
ただし、一度炭鉱で事故が起こると彼らが動いて皆を助ける役目を持っていたそうです。
また、アリも一定の割合は働いていないアリが存在しています。
働いていないアリを排除すると、今まで働いていたうちの一定の割合が働かなくなり、常にその割合が保たれるようになっています。
社会や企業にスカブラのような人を抱えることは、持続的な組織や社会を作るために必要、強化することに繋がる可能性があると暦本氏は言います。
考えてみると、
生き延びるのは強い種ではなく、変化に適応できた種であると言います。
私は進化論というのは、結果論であって、後から見返すと進化したように見えるのですが、子孫を残す過程ランダムにいろんな種類の変化系が生まれ、その中で環境の変化に偶然あった者が単に残ったと考えています。
例えば、今回のコロナウィルスの変異種という現象も一見コロナウィルスが進化したように見えますが、実態としてはたくさん変異している中で、弱い方向に変異したものは単純に拡散できずにいなくなるでしょう。しかし、たまたま強い方向に変異した種は拡散力が強くなったから広がっていく。
そういうたまたまを進化と呼ぶのか、偶然残ったというのか。
実際には後者に近いのではないかと思います。
となると、イノベーションも、計画的に進化させるという発想ではなく、色々試してみた中で、偶然残るという道なのではないかと思います。
ですので、暦本氏のいうように、人間が想定できるような予測に基づいた研究を行うよりも、偶発性を信じてスカブラのようにある程度自由な研究や一見役にたたなさそうな妄想をやっていくような人を増やしていくというのは思いがけないイノベーションはむしろもっと生まれてくるのではないかと思います。
そのような事が許される社会になってほしいと感じました。
暦本氏の妄想する頭、施行する手。おすすめの本です。
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